計測器の”デジタル校正証明書”が増えるかも。

私は計測器の校正事業者に勤務していますが、校正証明書の校正値の打ち込みはどうにか自動化できないものかと、いつも思っていました。

ちょうど、「デジタル校正証明書」(digital calibration certificates 以下DCC)なるものの規格化が進んでいるという話題を聞きましたので、DCCについて調べてみましたので記録に残しておきます。

国内のDCCの動向

国内ではつくばの産業技術総合研究所がDCCの情報を公表しています。このなかで「デジタル校正証明書の発行をご希望の方はこちら」というところを見ると産総研が発行しているDCCについて情報を得ることができます。

産総研のDCCはPDF形式で提供されます。PDFは1つの電子ファイルに複数のファイルを含めることができます。産総研のDCCには次の3つのファイルが入っています。

  • 校正証明書
  • 校正結果
  • 校正情報

校正証明書は従来の紙フォーマットと同じ校正証明書です。校正証明書の署名の代わりに電子署名が記載されています。

校正結果は校正値のデータです。校正証明書にも記載されていますが、こちらは機械に読み込ませることができるので、自動化に使えそうです。

校正情報は校正された機器の型番や製造番号、校正条件などが書かれています。トレーサビリティの情報等も記入できそうです。

そして上記の3つのファイルにそれぞれ電子署名のファイルが付属します。

校正結果と校正情報のファイルはXMLフォーマットを使用しています。例えば温度校正の結果は次のようなXMLで書かれます。

DCCの内容はAdobeのアクロバットリーダーで確認できます。最近はブラウザでPDFファイルを表示できますが、DCCの内容は見られません。

海外のDCCの動き

ヨーロッパでは自動車や製薬の分野で多くの校正証明書の管理が義務化されているため、電子化によるメリットは日本よりも大きくなります。そのため、DCCの取り組みは日本より進んでいて、EURAMET(欧州国家計量標準機関協会)の立ち上げたSmartComプロジェクトではDCCに関する規格化を進めています。

EURAMETの中心的な存在であるドイツではDCCの利用促進のため2020年にGEMIMEG-IIというプロジェクトが発足しました。GEMIMEGではDCCの利用を次のように考えています。

(The Digital Calibration Certificate (DCC) for an End-to-End Digital Quality Infrastructure for Industry 4.0)

GEMIMEGの資料によればDCCが計器に保存されるようになります。計器自身がDCCからデータを読み取り、自動補正や、校正期限の有効、失効を表示できるようになります。

DCCのためのPython Library ”PyDCC”

GEMIMEGでは計器がDCCを扱えるようにするためにプログラミング言語のPython用のライブラリ「PyDCC」を開発しています。

PyDCCはDCCの読み込みや電子署名の評価のためのライブラリでpipコマンドを使ってインストールできます。私も試してみたのですが、PyDCCは公開されたばかりで、まだ十分なドキュメントがありません。

PyDCCについては今後も注視しようと思うので更新があればブログで紹介したいと思います。

今後のDCC周りの変化

デジタル校正証明書は利用者にとって大きなメリットがあります。今まで手入力していた校正値はPDFのデジタル校正証明書から直接読み込めるようになり、誤入力が無くなります。

しかし、証明書の発行者にとっては証明書作成ソフトの購入が必要になりコスト増になるかもしれません。

GEMIMEGの資料を見ると、今後デジタル校正証明書を保存できる計器が増えると考えられます。そうなると校正事業者はデジタル校正証明書を計測器に保存してほしいという要望に対応する必要があります。

また、電子認証には自局情報を認証局へ登録する必要がありますが、この登録はJCSS登録とどのような関係になるのかも興味があります。