ISO/IEC 17025(JCSS) 不確かさの算出の方法(後半)

不確かさの算出方法の後半です。前半では不確かさの算出の際に必要になる不確かさの要因について説明しました。
後半は実際に不確かさの算出に必要なバジェットシートの書き方について説明します。
バジェットシートのフォーマット
バジェットシートを作る際は最後に自乗和の平均を取りますのでExcelなどの表計算ソフトを使う必要があります。バジェットシートのフォーマットは次のようになります。それぞれの数値について説明します。
不確かさ要因 | 値 | 分布 | 除数 | タイプ | 自由度 | 標準不確かさ |
標準器校正の不確かさ | ||||||
標準器の経年変化 | ||||||
標準器の温度変化 | ||||||
計測器の測定精度 | ||||||
測定ばらつき | ||||||
合成不確かさ | ||||||
拡張不確かさ |
不確かさの値
不確かさの値は評価試験を行って算出する方法もありますが、市販の標準器や計器を使っているのであれば、その機器の仕様書の数字を使うのが簡単です。
標準器校正の不確かさは標準器を校正した校正証明書に不確かさが書かれていると思いますのでその値を使ってください。例えば、私の事業所で使っている抵抗測定器は10kΩの標準抵抗を使って校正していますが、この標準抵抗器の校正不確かさは証明書によると2.5ppm(k=2)です。
不確かさ | 値 | 分布 | 除数 | タイプ | 自由度 | 標準不確かさ |
標準器校正の不確かさ | 2.5 | 2 |
このk=2というのは包含係数とか言いますが、k=2であれば2で割ると覚えていてください。なので除数は2です。FLUKEの仕様書などでは信頼の水準○○%と書かれていますが、95%がk=2、99%がk=3のことです。(標準分布の半値幅というやつです)
=2というのは包含係数とか言いますが、k=2であれば2で割ると覚えていてください。なので除数は2です。FLUKEの仕様書などでは信頼の水準○○%と書かれていますが、95%がk=2、99%がk=3のことです。(標準分布の半値幅というやつです)
分布
次に分布ですが、校正した値は複数回繰り返すと必ずばらつきます。このばらつきがどのような分布になっているかを記入します。だいたいは以下の3パターンの中から選ぶことができます。
正規分布
計器の測定値はたいてい正規分布になります。例えば温度計は20℃を測っても繰り返すたびに19.8℃だったり20.1℃だったりします。たまには18.0℃などエラーの大きい数値を表示します。
このようにだいたいあっているけど少しばらつきがあって、大きく外れる可能性があるものの分布は正規分布になります。校正の不確かさは正規分布です。
不確かさ | 値 | 分布 | 除数 | タイプ | 自由度 | 標準不確かさ |
標準器校正の不確かさ | 2.5 | 正規 | 2 |
矩形分布(一様分布)
矩形分布はある値からある値までの間で同じような確率でばらつきが発生する分布です。代表的なものは表示桁以下の切り落とし誤差です。
測定の際に、真の数値は1.01814582・・・と数字が無限に続きますが、普通は表示桁数の制限で1.0181くらいまでしか表示できません。切り落とされた0.00004582は誤差になります。
この誤差は必ず0以上0.0001未満の数になり、偏りなく発生します。この時の切り落とし誤差は矩形分布になります。
三角分布
三角分布は正規分布と同じような分布ですが、発生する範囲が決まっているものを指します。例えば2個のサイコロを一度に投げると目の合計は2から12の範囲を取り、7の確率が一番高くなります。
このような分布が三角分布です。ちなみにサイコロ1つだと矩形分布になります。三角分布は矩形分布の組み合わせの場合に現れます。
その他
その他にもU字の分布であったり、矩形分布が傾斜した分布があったりしますが、だいたい上の3種類のどれかに分類することができます。不確かさ要因の特性によって分布の種類を決めてください。
除数
先に求めた分布ですが、何に使われるかというと不確かさの値を割る除数を決める時に使われます。不確かさは最後に全部の要因を合成しますが、その前に除数で割って正規化をします。分布の種類による除数は次のようになっています。
- 正規分布 除数 1 (k=2の場合は2)
- 矩形分布 除数 √3
- 三角分布 除数 √6
- U字分布 除数 √2
タイプ
次のタイプですが、ここにはAかBが入ります。
- タイプA 統計的手法によって求めた値。実験値や観測値 正規分布
- タイプB 統計的手法以外で求めた値。仕様書や経験値 正規分布 矩形分布 三角分布
タイプAでは必ず正規分布になります。しかしタイプBでは正規分布になる場合もあるし、それ以外もあります。
有効自由度と自由度と包含係数について
不確かさのバジェットシートを作るうえでここがポイントかもしれません。できるだけ分かりやすいように書きます。正確な表現でなくなってしまったらすみません。
包含係数と有効自由度の資料については製品評価技術基盤機構のHPにいいものがあります。以下にリンクを書きます。直リンクですみません。
今までk=2の話が何度か出ましたが、このkのことを包含係数といいます。校正値1.018 V 不確かさ1 mV (k=2)という結果があった場合、100回反復測定すると95回の結果は1.017Vから1.019Vの間に入りますよ。という意味です。
k=1の時は68回。k=2の時は95回。k=3の時は99回です。正規分布のσと同じです。2だと2倍するだけだから便利ですよね。不確かさの範囲を外れるのはだいたい20回に1回なので、連発して外れれば何か異常があるとわかります。
多くの校正証明書は包含係数2を使っていますが、これはもともと計算から求められるべき数字であって、この計算に使われるのが自由度です。自由度を合計したものが有効自由度です。
自由度を一言で言うと不確かさの不確かさみたいなものです。自由度が大きいと、あいまいさが減ってくるので、包含係数を小さくすることができます。
自由度の求め方
タイプBの不確かさの場合、数値の曖昧さはほぼないので自由度を無限大とします。タイプAの場合は繰り返し測定した回数ー1回を自由度としています。
包含係数k=2は使ってよいケースが2つあります。1つは不確かさ要因のすべての自由度が10以上で有効自由度が明らかに大きいと判断できる場合。もう1つはWelch-Satterthwaiteの式から有効自由度が10以上となった場合です。
特に問題の無い場合はタイプAの評価を11回以上測定にして自由度を10以上にすればk=2が無条件で使えます。それ以外の場合、測定の繰り返しが11回もできない場合は Welch-Satterthwaiteの式 を計算してください。(NITEの資料に式があります)
バジェットシートの記入例
バジェットシートの不確かさの値に適当な数字を入れて計算してみました。合成不確かさは標準不確かさを自乗して、全部足して、最後にルートします。自由度は全部10以上でk=2が使えるので、拡張不確かさは合成不確かさ×2になります。
不確かさ要因 | 値 | 分布 | 除数 | タイプ | 自由度 | 標準不確かさ |
標準器校正の不確かさ | 2.50 | 正規 | 2 | A | ∞ | 1.25 |
標準器の経年変化 | 10.0 | 矩形 | √3 | B | ∞ | 5.77 |
標準器の温度変化 | 5.00 | 矩形 | √3 | B | ∞ | 2.88 |
計測器の測定精度 | 10.0 | 矩形 | √3 | B | ∞ | 5.77 |
測定ばらつき | 2.00 | 正規 | 1 | A | 10 | 2.00 |
合成不確かさ | 8.96 | |||||
拡張不確かさ(k=2) | 18 |
この記事では不確かさの要因は5つ上げました。一般的には不確かさの要因は大きいものから5つあればよいとされていますが、能力の高い事業者ではもっと多くの要因を求められるかもしれません。
まとめ
この記事ではJCSS登録に必要な不確かさのバジェットシートの作り方を説明しました。必要な範囲で、できるだけ簡単に書いたつもりですが、やっぱり難しいなってしまったかもしれません。
ISOの考え方はPDCA(計画、実行、評価、改善)なので小さく始めて、ふさわしいものに改善していけばいいと思います。とりあえず最初の一歩が大変なので頑張りましょう。