「計測器の校正ってなに?」校正試験のやり方や試験の効率化で時短する方法。

2019年12月18日

このブログは品質管理や計測管理の初心者に読んでもらおうと思って書いているんですが、根本的な”校正ってなに?”について書いていませんでした。本当に初心者は校正試験が何かわからない、校正試験はどうやるのかわからない人がほとんどだと思います。この記事ではそのあたりを詳しく説明します。

計測器の役割

世の中にはたくさんの計測器がありますが、その中には商品の取引量を計測しているものもあります。例えば、ガソリンスタンドの給油機や電気のメーターなどです。

これらの計測器は結果が代金に反映されるので相当な精度が要求されます。また売り手が意図的に高い料金を取ってしまったりしないように法律で必要な精度が定められています。

商取引以外では、商品の性能や精度を証明する計測器についても同じような規則があります。こちらは国際規格であるISOで定められています。ISOに従わなかったらかといって罪にはなりませんが、会社間の取引ではISO9001などへの準拠を条件とする会社もあります。

計測器の性能

一般的によく知られていませんが、計測器は経年変化といって時と共に計測能力が変わってしまいます。良くなることも悪くなることもありますが経年変化がずっとゼロという計測器はほとんどありません。

だから、はじめは高精度だったけれども、だんだん誤差が大きくなってきて、気が付けばでたらめな数値を出力していたということはよくあります

こういった失敗は安全安心関係の業界では大きな問題になります。代表的な例をあげると自動車メーカーでは計測器が狂っていなくても計測器管理の手順が間違っていたというだけで回収騒ぎになってしまいます。

ですので、品質が重要になる製品やサービスの供給者は計測器の管理に最大限の注意を払う必要があります。

校正試験

計測器の管理というのはとても大事なわけですが、計測器の精度がどうなっているかを判断するには校正試験が必要になります。校正試験とはすでに精度が分かっている計測器(標準器)と精度を確認したい計測器で同じ計測を行って、精度の比較をする試験です。

測るものと測るものの比較は結構難しいので、一般的には測定器の校正には基準器や発生器などの”測られるもの”を使います。この記事の表紙画像のノギスのようなものではブロックゲージという金属の塊を使います。もちろんこのブロックゲージも経年変化があり定期的に校正を実施する必要があります。

校正試験は普通定期的に行いますが、校正を繰り返すメリットは履歴が得られることです。校正結果を履歴として管理できるようになると計測器の経年変化の傾向が把握できます。この傾向から変化の予測や故障診断ができるようになります。

計測のトレーサビリティ

校正履歴からは測定能力が変化しているのが分かりますが、この値は何に対しての変化なんでしょうか。例えば超正確な8桁の電圧計も定期校正をします。私たちが変化していると認識できないような高精度な物も校正すると変化量が分かります。でも何を基準に変化を見ればよいのでしょうか。

これらの計測器の絶対的な基準は「国家標準」です。

ほとんどの国家標準は物理法則を利用した量子標準と呼ばれる仕組みを採用しています。例えば1mの国家標準は光が 299 792 458分の1秒間に進む距離を基準にしています。この長さは永久に一定で変化しません。国家標準は唯一性能の変化しない基準として考えることができます。(実際はこの言いかたは正確ではないですが)

例えば電圧の国家標準はつくばの産業技術総合研究所にあります。もし、あなたの持っている電圧計を定期校正する必要があるんだったら、産業技術研究所に校正依頼をすればやってくれます。しかし、国家標準から直接校正をすると数百万円の校正費用が掛かります。毎年所有しているすべての計測器を数百万かけて校正できる人はいないでしょう。

これを解決するためには、国家標準で校正された標準器を使います。それでも費用は高くなるので国家標準で校正された標準器で校正された標準器を使って校正します。4世代くらい繰り返すと一般的な校正の値段になると思います。

このように標準器を何世代かさかのぼると国家標準に行きつくような考え方をトレーサビリティといいます。トレーサビリティを確保するとか、トレーサブルだとかの表現は標準器の校正を何世代かさかのぼると国家標準につながっているという意味です。

校正試験の自動化

このような校正試験は、一般にはなじみが薄いですが、必要な所では毎日繰り返しやられています。日本最大級の校正事業所では一日500台以上の計測器が校正されています。ほとんどの校正試験は毎年同じ作業の繰り返しです。

実は最近この繰り返し作業を自動化できないかと相談されることが多いです。2000年以降に発売になっている計測器であればほとんどの場合デジタルインターフェースが付いていますので校正を自動化することは可能です。

計測器のインターフェースは数種類ありますが、一番普及しているのはGPIBと呼ばれるインターフェースです。計測器の背面に台形のコネクタと櫛形の電極があれば多分GPIBです。GPIBは古い規格ですが、LANなどに比べて通信ヘッダーが小さいのでレスポンスの早い通信が可能です。

実は私も特定の機種の校正は自動校正を取り入れています。自動校正は人員削減の効果の上に、人体が出すノイズが無くなるので測定精度が向上するというメリットもあります。私はわざと深夜に校正が実行されるようにしています。

自動校正のプログラミングについては当ブログのプログラミングのGPIBコンテンツでちょっと消化しています。今後は自動校正のソースコードも紹介していこうかと思っています。

まとめ

このブログでは計測器管理で必要になる校正試験について説明しました。理由はつぎのとおりです。

  1. 計測器は経年変化により測定精度が変わっていく
  2. 試験の精度を維持するためには経年変化を把握しなければダメ
  3. 経年変化の把握には定期校正試験が必要

校正試験については私のいる業界では当たり前ですが、一般的にはなじみ薄でしょう。この校正というのは計量法やISO 9001などで要求されている試験なので関係する方は必ずやっていただきたいです。

また、高度情報化社会(古い!)になったので市販の計測器はほとんどデジタル制御できるようになりました。ほとんどの事業所ではまだ手作業による校正試験を行っていると思いますが、デジタル制御による自動校正も検討してみてください。そのうち詳しい方法を紹介する予定です。