品保担当なら分かる?計器の校正データの活用方法ー合否判定と補正の2つの方法
私は電気計器の校正に関係した仕事をしていますが、校正試験のあとにもらえる校正証明書をどう使うかをよく質問されます。今日はこの校正証明書の校正値をどう使うかを説明します。
校正事業者の発行する校正証明書
国内最大の認定校正事業者は東京にある日本電気計器検定所(JEMIC)です。JEMICは主に電気計器、特に電力計の校正業務をしていますが、一部で長さや力の校正も行っています。
JEMICで校正試験を依頼すると試験後に校正証明書がもらえます。
リンク先に校正証明書の見本がありますが、証明書には被試験器の合格不合格は記載されません。校正試験とは計器の合否を判断するものではないわけです。
(JEMICの行っている”検定試験”には合否判断があります)
2通りの校正値の使いかた
校正試験で得られる校正値には2通りの使いかたがあります(あるようです)。1つは校正値を使って合否判定する方法で大多数の人はこの方法をとっています。
校正値を使った合否判定
私が相談を受ける人のほとんどが校正証明書の校正値を使って計器の合否判定をしています。
例えば、校正値が公称値の±1%から外れたらこの計器は不合格で、「ISO関係の業務に使わない」とか「使用前に修理」とか、されています。
この時「±1%」の決め方はこの計器の測定精度を引用している人が多いです。しかし、校正結果はばらつきを持っており、測定全体の5%くらいは測定精度を超えてしまいます。だから私の職場では合否判定をしていません。
ガードバンド
話が少しそれますが、±1%の値のことをガードバンドといいます。ガードバンドの決め方はいろいろあると思います。
ガードバンドを仕様書の測定精度を基に決めると、数%はガードバンドを外れてしまいます。測定値はばらつきがあるから。
これだと正確な計器でも100回に数回はガードバンドを外す結果を出しますので、正確なのに使用不可という不具合が生じます。
なのでガードバンドは測定精度以外の方法で決めます。私が勧めている方法は必要な測定精度から逆算する方法です。
これはこれで大きなトピックなので今日のところは紹介だけ。改めてガードバンドについて説明できれば説明します。
校正値を使った補正
2つ目の方法は校正値を使って測定結果を補正する方法です。機器の測定結果がずれているのならば、修理、調整、使用中止せずに結果を補正してやれば正確な測定が行えます。
そこで校正試験の値が必要になります。例えば電圧計の表示100Vの時の校正値が101Vだとすると、100Vの測定結果には常に+1Vして使用します。
この方法だと計器が何Vずれていようと毎回同じだけずれる(再現性がある)限り精度は保証されます。
(どのくらい精度が保証されるかというと証明書に記載される「不確かさ」から求めることができますが、これもまた別の記事で)
しかし、開発や出荷試験の際に毎回足し算するのは効率悪いですよね~。よくわかります。だから、補正値を使った合否判定はイマイチとわかりつつ、仕方ないなと思っています。
計器の履歴管理
校正値を使った補正を続けていると、とても良いことがあります。それは徐々に変化していく計器の性能がつかめることです。
計器は経年変化があり徐々に測定能力が変化していきます。この履歴を定期的に記録しておくと将来の経年変化を予測することができます。また、予想と違う経年変化が起きたときは計器の異変や校正試験の不具合などを考えることができます。
この予測は計器を修理、調整してしまうとわかりません。毎年補正値を記録しないと使わないと見えてきません。なので私はこの方法を使っています。
それと、ISO 17025は結果の妥当性検証に統計的方法の使用を要求しています。これは標準器の校正履歴をつけなさいということですね。そうなると補正値の方法を使う必要があります。
まとめ
この記事では校正結果の活用方法を2つ紹介しました。
- 校正値を合否判定に使う方法
- 校正値を使って補正値を計算する方法
どちらも一長一短あります。どちらの方法をとるかは皆さんの環境によると思いますので、標準器の運用等で問題がある方は検討してみてください。