計測器の校正事業を立ち上げるには

2022年1月21日

このブログにはだいたい3つくらいテーマがあって、その1つがISO、特に計器校正事業者の認定制度であるISO/IEC 17025 JCSS制度を取り上げることが多いです。

JCSSは計器校正事業者に与えられますが、そこまで大げさでなくても校正業務ってどういうふうに始めたらいいの?と迷っている人もいると思います。

この記事ではゼロから校正業務を始めるまでの道筋を説明したいと思います。

校正量目を決める

計測器には多くの種類があります。ノギス、はかり、温度計、電気計器、流量計とか濃度計とか。校正事業を始める前には、これらのうちどの計器を校正するのか?その量目を決定する必要があります。

校正業務を始めようと思っている人は、何かの必要に迫られてそう思っているんじゃないでしょうか。例えば、工場で検査用機器が増えてきたので自前で校正を管理しようとか。それでしたら、何を校正するのかはその必要な量目から考えれば良いでしょう。

量目が決まっていない場合や、たくさんあってどれから手を付けていいか分からない場合はとにかくシンプルなものから始めます。

私は電気が専門なので、ここでは例えば「抵抗計」を校正する業務を始めることにします。

標準器を考える

どんな計器を校正する事業なのかが決まったら、次はその計器を校正する標準器を考えてみます。

一般的に標準器の精度は校正される計器の4倍から10倍必要です。例えばAlpha Electronics社のASR標準抵抗器は校正不確かさが2.5 ppmです。1 ppmが6桁、10 ppmが5桁ですので2.5ppmだと5桁+αくらいの抵抗計が校正できます。

ただし、この考え方はかなりざっくりとした見積もりです。実際は6桁の抵抗計を4桁精度の標準抵抗器で校正しても問題ないので、もっと性能の低い標準抵抗でも大丈夫な場合もあります。

トレーサビリティを考える

標準器が決まったら、標準器を校正してもらえる上位の校正事業者を探しましょう。標準器のメーカーが校正を行っていればそこに依頼するのが一番簡単です。

メーカーがJCSS校正できないとか理由があれば、校正専門の事業者に校正を依頼することもできます。国内の校正事業者で有名な所は日本電気計器検定所や日本品質保証機構です。

上位校正事業者に依頼する校正はできる限りJCSS校正にするのがよいです。JCSS校正であれば、国家標準へのトレーサビリティが保証されていますのでそれ以上余計な資料が必要ありません。

校正周期は毎年がよいです。毎年やらなければいけない明確な理由はないですが、校正を依頼したお客さんがどのように校正証明書を使うかによっては1年以内に標準器を校正した証拠を要求されます。

校正室を作る

校正機材がそろったら、その機材を使って校正する校正室を準備します。計測器は温度に影響されるものが多いので、校正室は温度制御できる必要があります。できれば湿度制御もあった方が良いです。

電気の校正は23℃、機械は20℃といわれていますが、特に指定はありません。ただし、他の事業者と比較試験をする際などは他と同じ温度にする必要がありますので、やはり一般的な温度にするべきです。

ゆくゆくはJCSSを取得するのであれば、温湿度の記録を取れるようにしておいた方が良いです。何かの不具合で一時的に温湿度が変化し、計器に影響があったことが確認できます。

校正室には標準器と顧客から依頼を受けた計測器を保管します。なので、出入り口は施錠可能で、権限のある人間しか入室できないようにします。入退室管理があればなお良いです。

校正方法を決める

これも決まりがあるわけではないのですが、校正方法(校正手順)を決めて文書化しておいた方がいいでしょう。校正は長年の定点観測がとても重要です。10年以上同じ方法で校正をするためには校正方法をぜひ文書化してください。

測定器によってはマニュアルに校正の方法が載せられているものがあります。それらの方法を抜き出しておいて部署の標準の方法するのも良いやりかたです。

履歴の収集

標準器の校正を始めたら、校正結果の履歴を記録します。記録が積み上げられていくと、だんだん標準器の正確が現れてきます。

例えば同じ型番の製品であっても、一方は少しずつ校正値が増えていくのに対して一方はだんだん減っていくなどの傾向が見て取れるようになります。この傾向は標準器の製造時には大きく、やがてだんだんとフラットになります。

校正履歴がたまってくると、校正値の少しの揺らぎでも何かが有ったのか無かったか判断できるようになります。古い標準器でもこの校正記録がたくさん残っているものは価値が高いものとして扱われます

収集した履歴が安定してくれば校正事業としては立ち上げ期は終わりでしょう。この後は安定した標準の供給を目標にしていきます。

まとめ

この記事ではゼロから校正事業者を立ち上げる場合の手順について考えてみました。私の印象では校正事業は次のような準備があります。

  • 校正量目の決定
  • 標準器の準備、決定
  • トレーサビリティの決定、校正実施
  • 校正環境の準備
  • 校正方法の準備
  • 履歴の管理

もしも、校正事業の立ち上げ方が分からなくて困っている方がいれば参考にしてください。