自局校正で経費節減!デジタルマルチメータの校正方法
以前の記事でISO9001取得企業にとっての計測器管理の重要性を説明しました。計測器管理がされていない企業は論外ですが、多くの企業はまだまだ管理に改善の余地があるはずです。
私はそんな企業には自局校正を勧めています。校正事業者の立場ですが、企業が自局校正できるものは自局校正したほうがいいと思っています。自局校正は手間がかかりますが、校正費用の節減と校正期間の短縮、機器管理の整理や人員の教育訓練の向上などメリットも多いです。
この記事ではそのような自局校正の中でも1番機会が多そうなデジタルマルチメータ(またはテスター)の校正方法について紹介します。
校正試験の記録
ISO9001に使われている機器であれば、新品であっても、一度は校正を受けていると思います。自局校正をするのであればこの校正を真似することからスタートするのが楽です。
校正試験を始める前に前回の校正試験証明書、校正試験成績書、校正記録などを見てください。ここには試験に際して記録しなければならないことが書いてあります。例えば横川レンタリースの校正成績書は次のリンク先のようになっています。
自局校正の前に試験記録票を作ります。記録票はこの横川レンタリースのようなフォーマットに似せて書けば良いですが、最低でも次の項目は書いておかないと後々証拠として役にたたないので気をつけましょう。この部分が記録票のヘッダになります。
- 通し番号
- 校正される機器の品名
- 機器のメーカー名
- 機器の型番
- 機器の製造番号
- 試験室の温湿度
- 試験実施者
- 試験実施日
- 試験に使った標準器の型番
- 試験に使った標準器の製造番号
つぎに試験記録票の試験結果の部分を作ります。自局校正する機器の前回の校正がメーカー校正であれば、機器の全機能に渡って校正されているかもしれませんが、必ずしも全機能を校正する必要はありません。私は日常的に使われている機能以外は校正していません。
このようなことを考えて試験結果には次のような欄を作ります。
直流電圧測定機能 レンジ 試験点 基準範囲 測定値 判定 (V) 1000 1000 990 〜 1010 900 890 〜 910 ・ ・ (mV) 10 10.00 9.90 〜 10.10 (以上)
横川レンタリースの例では判定の欄がありますが、合否判定をする方法と補正をする方法があります。私は補正をする方法をとっていますが、運用上都合がいい方にしてください。合否判定と補正について説明した記事のリンクを載せておきます。
校正に使う標準器
自局校正で使う標準器を用意します。この標準器が1番のハードルになります。デジタルマルチメータは測定器なので標準器は発生器になります。デジタルマルチメータを校正できる発生器は精度によって何種類かあります。
ちょっと高価ですが、FLUKEのキャリブレータが業界標準になっています。
国内メーカも校正装置を出しています。横川電機は交流と直流が別ですが、コストパフォーマンスが高いです。
直流だけですが、ハンディキャリブレータを使用することもできます。
いくつか標準器を書いたのでおすすめのガード付きケーブルも紹介します。FLUKEにはPomonaのガード付きケーブルを使用しています。
一般的に校正装置は高価です。これは大きな問題ですが、校正試験の経費節減のため自局校正をするのであれば標準器に高いコストを掛けることはできないと思います。校正される機器の性能や台数と標準器にかかる費用を考えて自局校正のメリットを見いだせないのであれば、残念ながら諦めるしか無いでしょう。
標準器を外部から借りてくる
コストの問題を解決する方法として、私は標準器を外部から借りてくるのが良いと思っています。例えば横河レンタ・リースでは標準器の貸出をしているので、JCSS校正済みの標準器を1ヶ月レンタルしてこの月は自局校正の月とします。
この方法はISO 17025などの校正事業者の自局校正では不適合にあたると思いますが、ISO 9000などのトレーサビリティの維持では問題ないと思います。
またこの他に地方自治体の工業試験場で標準器を貸してくるところもあります。
標準器の校正
標準器が決まったら標準器の定期校正を行います。標準器の校正は外部の校正機関に依頼します。測定のトレーサビリティを維持するために最上位の標準器は必ず外部の校正機関に校正を依頼します。できればJCSS登録されている校正機関が良いです。トレーサビリティの確認の際に手間が減ります。
私は1年中自局校正を行っているので、比較的作業が少ない1ヶ月に校正試験を停止して、外部に標準器の校正を依頼します。
自局校正
外部機関での校正試験は1ヶ月くらいかかるのが普通ですが、自局校正をすると現場測定器が外部に出て使えなくなる期間がありません。これが自局校正の大きなメリットです。
最上位の標準器の校正ができたらそれ以外の計器には自局校正が実施できます。自局校正と言っても作業自体はただの測定ですからそれぞれやり方があると思いますので技術的な手順は説明しません。
ただし、校正手順書は必要になるので作っておきます。ISO 9001でもトレーサビリティの証拠を文書化することが要求されています。解釈にもよりますが校正手順の文書化を求められる可能性もあります。
まとめ
この記事ではデジタルマルチメータの自局校正の方法について説明しました。自局校正する場合は次の点を確実にする必要があります。
①自局校正に必要な資料を保存しておくこと
②トレーサビリティの確保された標準器を用いること
この2つが安く(低コストで)実現できるのであれば自局校正を検討してみる価値はあると思います。