測定不確かさとは?測定精度と何が違うのか?

2019年11月25日

私はここ10年以上電気の計測関係の仕事をしています。仕事の中でよく計測についての質問をされます。先日、計測の不確かさについて質問をされました。その際に答えた内容についてこの記事でも書いてみたいと思います。

不確かさの前に測定精度とは

測定の不確かさも測定精度も、測定がどのくらい正確かの指標です。昔はよく測定精度を使っていましたが、1980年代くらいから測定精度について疑問視する意見が増えてきて不確かさを使うようになっていったようです。

なんか古い文献を読んでも測定精度の定義が何種類かありよくわからなかったんですが、測定精度の定義は( 測定値ー真値 )とするものが多いようです。曖昧ですみません。

分かりにくいので先に例示しておきます。例えば、パイプの直径を測る場合、竹製のモノサシで測るのと、デジタルノギスで測るではデジタルノギスで測る方が真値に近いでしょうから測定精度は小さく(精度が高い)なります。

測定精度に対しての疑問の多くはこの定義が原因です。測定値とは観測者に分かるものですが、真値は神様しかわからない値です。それをどうやって測定の正確さの評価に使えるんだ?と言われていました。

測定精度から測定不確かさへ

そういうこともあり、測定の正確性の評価尺度は精度から不確かさに移っていきました。それに伴って精度、誤差、真値などの単語もVIM(国際計量基本用語)により再定義がされました。

  • 精度 測定値と測定量の真値の近さ
  • 誤差 測定値から参考値を引いたもの
  • 真値 定義に矛盾しない観測量の値

分かったような分からないような感じですが、とにかく測定の評価には不確かさを使うことになりました。とは言ってもこれはISOに限った話です。国内ではまだ伝統的な意味での精度や誤差を用いているところもたくさんあります。

また、不確かさの考え方と精度の考え方は全く違うのかというと、標準偏差を用いる部分については似通った部分が多く、測定精度の文化が通用しなくなってしまったかというとそうでもないようです。

国家標準やトレーサビリティとの関係

不確かさは履歴やトレーサビリティを取り込んだことが精度の考え方に対して大きな違いです。

不確かさの計算手順では計器の校正履歴から経年変化を求める部分があります。校正履歴が無ければ経年変化を求めることができません。(実際はメーカー仕様を参照しても良いがほとんどの場合、数値が大きくなる。)このため計器の定期校正が必要になります。

校正の不確かさの計算は校正試験に使用した標準器の校正不確かさを用いますので、親標準器の不確かさ、祖父標準器の不確かさ、ずっとさかのぼって国家標準の不確かさまでが間接的に含まれます。

つまり不確かさを算出すること=国家標準にトレーサブルなのです。

ISOでもうるさく言われますが、計器管理をするということは校正試験の履歴データを保存することになります。校正履歴が積みあがって経年変化の傾向が分かって初めて不確かさを計算することができます。

JCSSとの関係

JCSSとは日本の計量法によって定められた校正事業者登録制度です。JCSSはISO/IEC 17025のルールに準拠して運用されています。つまりJCSSもISOのやりかたを踏襲していますので、精度ではなく不確かさの考え方を採用しています。

いままであった精度の考え方を捨てるのは良い面もあります。不確かさはGUM (Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement – ISO Guide98-3,JCGM100)という教科書が作られていて、世界の校正事業者はGUMの考え方を参考にしています。不確かさは世界共通の解釈で運用されています。

測定精度は国によって古くからある場合も新しい考え方な場合もあるでしょうし、国によって少しずつ定義も異なるはずです。ISOのために各国の測定精度に対する考え方を変えることはなかなかできません。

まとめ

この記事では測定精度と測定不確かさの関係について説明しました。日本では1980年代くらいから不確かさの考え方が広まり、それまで使われていた測定精度に変わるようになっています。これは全世界的な動きです。

ISOも不確かさを採用しているため、ISO/IEC 17025に準拠しているJCSS制度などへの影響は大きいです。(大きかった)

不確かさは精度より直感的でないのですが、計測管理の担当者は理解しておかなければならない考え方です。