高精度デジタルマルチメータのハンディー機は何を買うべきか?

2020年3月10日

これはアナログマルチメータですが、今日の内容はデジタルマルチメータ

私は仕事で電気計測をしています。なのでデジタルマルチメータをよく使っていますが、たまに「おすすめのデジタルマルチメータはどれ?」と聞かれます。ちょっと前までは「これっ!」って機種がありましたが、現状ではアジアメーカーも勢力を伸ばしているので機種選びが難しくなっています。

今日はデジタルマルチメータを選ぶ際のチェックポイントとおすすめ機種など紹介したいと思います。

デジタルマルチメータとは?

デジタルマルチメータの定義はありませんが、概ね交流と直流の電圧電流、抵抗、が測れるものをデジタルマルチメータと呼ぶようです。

デジタルマルチメータはざっくりベンチ型とハンディ型に分けることができます。一般的にベンチ型が高級高性能。ハンディ型が安価でそれなりの性能です。

ベンチ型デジタルマルチメータの最高峰は?

デジタルマルチメータの最高峰を知ってますか?私の知っている限りで1番高価なデジタルマルチメータはFLUKEのリファレンスマルチメータです。定価がありませんが、多分300万円くらいです。

相当高価ですが、性能も最高で、桁数だけ見ても9桁の測定ができます。9桁とはどういうことかというと乾電池を測ると1.500 000 00 Vの桁まで測れます。普通はここまで測れる必要は無いですね。

しかし実際デジタルマルチメータの王様はKeysightの3458Aです。価格は100万円ちょっとで、仕様書での性能もFLUKEのリファレンスマルチメータよりも劣りますが、恐ろしいほどの実績があります。

3458Aは1990年代からずっとデジタルマルチメータのトップとして君臨しています。初版から20年以上経っていますが、未だに新品で買えます。その間に製造メーカーのHPはAgilent Technology、Keysightと名前を変えています。

これらのマルチメータは標準器として使われています。何かをテストするために使われるのではなく、電圧電流の基準として使われます。日常で使っているコンセントの電圧や携帯の電波も大元までたどっていくとこれらの機器で管理されています。

ハンディ型の良いところ

ちょっと脱線しましたが、このブログを読んでいる人たちの中に最高峰のマルチメータを買いたい!と思う人はいないでしょう。ここからはハンディ型について紹介します。

ハンディ型のいいところはなんと言っても商用電源から切り離されているところです。電源設備の無いプラントや山中の太陽光発電所などではコンセントが無いので、ハンディ型でないと役に立たないでしょう。

意外ですが、ハンディ型の方がベンチ型よりも高電圧が測れたりします。ベンチ型の交流電圧測定はだいたい700Vですが、ハンディ型の多くは1000Vまで測れます。またベンチ型の場合Loと電源GNDの耐電圧が500Vぐらいですが、ハンディの場合は電源GNDは関係ないのでLoに何万VかけてもOKです。

買っても良さそうなデジタルマルチメータ4社

この記事ではハンディのデジタルマルチメータでも4.5桁以上の比較的高精度なデジタルマルチメータに焦点を絞って、おすすめを紹介したいと思います。

実は中国企業の参入でハンディのマルチメータは種類がドッと増えてしまいました。良いものも悪いものもあるとあると思いますが、ここで紹介しても短期間で状況が変わってしまうので、それらの中華マルチメータは今回は紹介しません。

日置電機

1つめは国内の計測器トップ企業日置電機です。日置電機の主力は工場の製品検査装置などです。ディジタルマルチメータも有名ですが、国内のクランプセンサーのほとんどを日置電機が生産しているようです。他社のOEMも多く手掛けています。

ディジタルマルチメータのイメージは、高いけど高性能です。本体の質感もよく堅牢な印象です。

三和電気計器

三和電気は国内で1番有名なマルチメータメーカじゃないでしょうか。安いものから高いものまでラインナップが豊富です。多くのニーズに対応できるように高機能モデルは6.5桁表示が可能です。6.5桁ですとベンチ型と遜色ありません。全体的にコストパフォーマンスが良いです。

 FLUKE

FLUKEは標準器の世界トップ企業です。もともと最高精度の測定機を作っている会社なのでマルチメータも高級な印象です。世界最高性能のリファレンスマルチメータを販売している会社です。

 Keysight

Keysightはもともとはパソコンで有名なHPでした。HPの測定部門がAgilent Technologiesになってその中の計測機器部門がKeysightになりました。ディジタルマルチメータの王様3458Aを作っています。

Keysightのディジタルマルチメータは本当に種類が多いです。しかも各モデルの差別がわかりません。しかし、品質が低いわけでは無いのでモデル選びには相当迷います。

デジタルマルチメータの価格比較

各社のラインナップの中から4.5桁マルチメータで普及モデルっぽいのを選んでみました。これらの機種か似たようなものを選んでおけば失敗はないのではないでしょうか。

日置三和FlukeKeysight
型番DT4281PC700087VU1241
表示桁4.5桁5.5桁4.5桁
4.5桁
価格¥42,000¥28,800¥48,000¥24,000

Keysightは4桁とカタログには載っていますが、多分4.5桁です。三和だけなんか5.5桁なんですけど・・・。4.5桁が無いみたいです。

 日置 三和 Fluke Keysight
DCV1000 V1000 V1000 V1000 V
DCI600 mA10 A20A10 A
ACV1000 V1000 V1000 V1000 V
ACI600 mA10 A20A10 A
R600 MΩ50 MΩ50 MΩ100 MΩ

特別な機能が必要ないのであれば三和のミドルモデルを買っておけば良いんじゃないでしょうか。価格と性能のバランスが良いと思います。

どれもいいDMMですが、私は日置が好きです。HIOKIのDMMは電流計測だけ他社に比べて少ないですが、クランプセンサーのトップ企業なので電流プローブがオプションでついています。これを使えば2000Aくらいまで測ることができます。

デジタルマルチメータ選びで考慮する点

前章では一番汎用な機種を紹介しましたが、これらの機種を買えない場合やもっと特殊用途を考えている人もいると思います。それではどのような視点で機種を選べばよいかを紹介します。

桁数で選ぶ

デジタルマルチメータのカタログには表示桁数が書かれています。デジタルマルチメータを選ぶ際にはまず用途と表示桁数の関係で選びます。

  • 簡単な検査をする(テスター用途) 2.5桁以上
  • 主に交流の数値を測る 3.5桁以上
  • 主に直流や抵抗値を測る 4.5桁以上
  • 主に基準器として使う 5.5桁以上

一般的に交流よりも直流の方が安定していて、小さな差異を測るには直流の方が桁数が必要です。抵抗も直流で測定されますので同じ桁数があった方が良いでしょう。また、他の計測器の基準器として使うのであればさらに大きな桁が必要です。

測定範囲で選ぶ

経験上、電圧測定の上限はだいたい1 kVか700 Vです。しかし電流レンジは機種によりさまざまですので電流計測のためにデジタルマルチメータを選ぶ際には注意が必要です。

またクランプメータという布団ばさみみたいなオプションで電流をはかれる機種もあります。これはさらに大きな電流を測ることができるので、機種選びではオプションも考慮したほうがいいでしょう。

その他のチェックポイント

その他に私が後悔したことのあるデジタルマルチメータ選びのポイントを紹介します。

  • 大きさ 小さいほうがいいです。
  • ケーブル長さ、ケーブル交換できるか
  • PC連携できるか
  • 液晶見やすさ
  • 防水性能

まとめ

この記事では電気計測の仕事をしている私がおすすめするハンディ型ディジタルマルチメータを紹介しました。私の感じる限りでは、日本メーカーがいいですね。性能で勝負している感じがして好感が持てます。

三和はコストパフォーマンスに優れています。この精度でこの価格は素晴らしい。対して、日置は高級品ですが、高級品成りの性能があります。中間性能の製品を作らないのはそういうブランド戦略なのかなと思います。

FLUKEとAgilentは悪いディジタルマルチメータでは無いですが、少々高価な気がします。ただ、FLUKEは電気標準の世界トップですし、Agilentはオシロスコープや高周波測定器などの巨大企業ですので、高い技術のフィードバックはある(ような気がします)。

しかし、この分野は進歩が早く、新しいモデルやメーカーが次々と現れているので、紹介した情報もいつまで新鮮かわかりません。やはりその時の仕様を見ながらベストな製品を探す必要があります。

今後は技術的な話も紹介していく予定ですのでディジタルマルチメータ選びの参考になれば幸いです。