計測器の”入力インピーダンス”って何?

2023年5月23日

「入力インピーダンス」というと難しく聞こえますが、とても簡単に言うと計測器のHiとLoの端子間の抵抗値のことです。

入力インピーダンスは計測器とスピーカーでよく使われているようですが、ここでは特に計測器の入力インピーダンスについて解説します。

インピーダンスと抵抗Rの違い

はじめにインピーダンスを説明しますが、いくつか式が出てきます。ただしこの式は入力インピーダンスを大まかに理解するには必要ないので、必要ない人は読み飛ばしてください。

インピーダンスとは電圧と電流の比のことです。電圧電流の比とは直流の場合では単純に抵抗のことを指します。電圧E、電流I、抵抗Rの関係は超有名なオームの法則で表すことができます。

$$E=IR$$

直流ではE、I、Rが実数なので簡単です。これが交流になると複素数Zが入るので途端に難しくなって次のようになります。

$$E=IZ$$

$$Z=R+jωL-j\frac{1}{ωC}$$

(jが虚数、ωが角周波数、Cがキャパシタンス、Lがインダクタンスですが分からなくてもOKです)

Zのことをインピーダンスと言います。インピーダンスの中にはRが入っているので抵抗Rはインピーダンスの一部ってことになります。Zは直流の場合jωがついている項が無くなるのでE=IRになります。

説明を難しくしてしまいましたが、要はインピーダンスというのは直流では抵抗のことです。交流の場合は電流の振幅を変化させる抵抗に加えて、電流の位相を進めせたり遅らせたりする成分を含んでいます。

入力インピーダンスとは?

電気信号を入力する装置には+とーの2つの端子があります。例えばデジタルマルチメータの電圧測定端子もHi(gh)とLoの2つがあります。入力インピーダンスとはこの2つの端子の間のインピーダンスです。

逆に電気を発生するものには”出力インピーダンス”があったりします。

デジタルマルチメータのHiとLoは内部で測定ICにつながっています。測定ICは入力を数分の1にするために抵抗を介してつながっている場合もあります。またフィルターと言ってコイルやコンデンサとつながっている場合もあります。これらの素子の特性を合成して、外部からは入力インピーダンスという1つの複素数に見えます。

電圧計の入力インピーダンスは無限大が理想

電”圧”計の入力インピーダンスは無限大が理想です。電圧計の入力インピーダンスが十分に大きくないと、どこかの電圧を測ろうとHiとLoの端子をピッと当てると、電圧計の中に電流が流れて、測ろうとする部分に電圧降下が起きます。

逆に電圧計の入力インピーダンスが高ければ電圧計の端子間を流れる電流が少ないので、測定が回路に与える影響が小さくなります。だから入力インピーダンスはできるだけ高いほうがいいんです。

しかし、実際の電圧計の入力インピーダンスは10MΩ~10GΩなので、電圧を測定した瞬間に回路のバランスが変化して、電圧計には実際とは少し異なった数字が表示されます。

電流計の入力インピーダンスは0が理想

電”流”計の入力インピーダンスは0が理想です。電圧計とは違って電流計は内部を電流が流れるように配線します。だから入力インピーダンスが高くなってしまうと電流の流れを邪魔してしまって、電流測定値が減少してしまいます。

電流計の入力インピーダンスが0に近いと電流は電線に流れるのとほぼ同じように電流計の中を流れますので、正確な電流計測ができます。

しかし、実際には電流計の入力インピーダンスは0ではありません。特にアナログ電流計は入力インピーダンスが大きいです。アナログ電流計を持っている人は抵抗計で入力インピーダンスを測ってみてください。理由は針を動かす電力を測っている電流からとらなければならないためです。

電圧計や電流計を使う場合は入力インピーダンスによる分流や電圧降下を考えないとうまく測れない場合があるので注意です。

デジタルマルチメータの入力インピーダンス設定は何のため?

いくつかのデジタルマルチメータには入力インピーダンスを変更する機能がついています。これは電圧の計測の方法によっては入力インピーダンスが高いほうが良かったり低いほうが良かったりするためです。

高い入力インピーダンスの方が良い場合

いくつかのケースが考えられますが、例えば抵抗分圧した電圧を測る場合は入力インピーダンスを高く設定します。

図のような抵抗分圧の回路は10Vの電源の電圧を1:1に分圧します。3つある端子(〇)の真ん中と下の端子間には5Vの電圧がかかります。しかし、この5Vを測ろうとデジタルマルチメータを電極につないでも5Vの表示になりません。

この理由は、デジタルマルチメータの入力インピーダンス(例えば1MΩ)と回路の1MΩは並列の合成抵抗になり合計が500kΩになってしまうからです。上の図のような場合はデジタルマルチメータは3.3 Vを表示します。

デジタルマルチメータを設定して入力インピーダンスを1GΩにしたらデジタルマルチメータはほぼ5 Vを表示し、期待している計測ができます。

低い入力インピーダンスの方が良い場合

入力インピーダンスが低くてメリットがある場合は(あまり思い浮かびませんが)、例えば、測定対象が帯電しているときなどは、入力インピーダンスが高いと帯電が抜けるのに時間がかかって、測定まで待ち時間がかかる場合があります。

また電圧計の構造上、定電圧レンジと高電圧レンジは入力インピーダンスを高くできないので、全レンジの入力インピーダンスを統一するために中盤レンジを低くすることもあります。

デジタルマルチメータの入力インピーダンス設定方法

私の手元にAgilentの43301Aがあります。このデジタルマルチメータだとA:MEAS MENU > 3:INPUT Rの項目に10 MΩと10 GΩの選択ができます。残念ですが、このデジタルマルチメータも100 mV、1 V、10 Vレンジだけしか10 GΩにはできません。

この他にもベンチ型のデジタルマルチメータは入力インピーダンスを変更できるものが多いです。それらについてはマニュアルを参照してください。

まとめ

この記事では計測器の入力インピーダンスについて取り上げました。

  • インピーダンスとは何か?抵抗と何が違うのか?
  • 入力インピーダンスの影響
  • 入力インピーダンスの設定方法

まぁまぁよく使う機能ですので、参考にしてみてください。