不要な技術は廃棄しなければいけない理由

「老害」なんて言葉を耳にすることが増えましたが、校正業務でも古いものが捨てられず「これは貴重だから」「重要だから」と言った結果、試験室がゴミだらけになりがちです。

しかし、計測管理では捨てることがとても大事な業務の1つだと実感しています。この記事では私が体験した、捨てることによってJCSSの維持が劇的に楽になった事例とそこにまつわる話をしたいと思います。

校正業務でよくある話

校正の業界ではよく語られることですが、標準器や計測器は新品より校正履歴が整っている中古の方が価値があります。これは中古の方が経年変化を推定しやすいことが理由です。

一般的に標準器や計測器は製造直後は経年変化が大きい期間が続き、経年変化は徐々に収束していきます。校正履歴が残っていると収束の程度が予測できるので校正試験の間の値の変位が推定しやすくなります。

この収束は年がたてばたつほど安定していくといわれています。(「枯れる」とか表現する)そのため標準器業界で働く人たちはとりあえず古い標準器は全部取っておいて絶えず校正を続けるという行動をとりがちになります。

私が校正担当者に配属されたときは標準室は物置みたいになっていました。古い標準器があるのはもちろん、古い薬品、古い端材。今思い出すとゴミにしか見えません・・・。

しかし、先輩の社員からは「標準室とはそういうことだ」と教育を受けた私は素直にそれが正しいことだと思い込んでいました。

この仕事を続けていくうちに先進的な企業の標準室、校正室を見る機会が増えましたが、行くところ行くところすべてが整頓されていてきれいにされている・・・。「あっ。これが理想の標準室だ。」と気が付いたのは入社して何年もたってからでした。

ISOの清掃の要求

工業において整理・整頓は非常に重要です。その証拠にJIS Q 17025:2005(現在は2018が発効しているので旧版)では整理・整頓の要求がありました。

5.3.5 試験所・校正機関内の良好な整理・整頓・衛生を確実にするための手段を講じること。必要な場合には特別の手順を準備すること。

JIS Q 17025:2005

新しいJISではなくなってしまいましたが、小学校で習う整理整頓をわざわざ規格書に書かないといけないほど整理整頓は重要な作業である訳です。

ゴミ箱からの脱出

自分の環境の問題点に気付いてからしばらくの間はどうすればよいか分かりませんでしたが、ISO 9001の教育をしっかり受けた社員がグループに入ってくれて、ゴミ箱標準室の問題点を指摘してくれました。あの頃を思い出すと私はすっかり弱り切っていて、自分の環境がよく見えていませんでした。

よほど状況がひどかったんだと思いますが、その時は年間の定期業務をちょっと中断して標準室の清掃に取り組むことになりました。

そしたら、出るわ出るわでヤバイものがたくさん出てきました。一番大変だったのは毒物の関係です。あと地味に大変だったのはカーボン紙。あと分別が考えられていない20世紀の製品(のゴミ)。

標準室の清掃は何日もかかりましたが、清掃後は明らかに作業の効率が上がっています。1割は探し物に時間を割いていると紹介しましたが、体感でもそのくらいの時間を節約できているように感じます。

何が問題なのか

業務環境がゴミだらけになると何が問題なのでしょうか。

大塚商会の調査によると、残業の多い社員と少ない社員を比べると、残業の多い社員は「探し物」に多くの時間を使っていることが分かったそうです。

しかも、その探し物の時間は年間150時間になるそうです。一日平均で約40分、仕事の1割近くは探し物に費やしています。

それらの探し物を減らすには「整理整頓」が重要だそうですが、私は一番効果があるのは「不要なものの処分」だと思います。

物があるとどうしても管理のコストが発生します。たとえきれいに整頓されていたとしても価格のついているものであれば棚卸が必要だし、規制化学物質とかあるし、何よりジャマです。

そういえば、ジャマを数値化するには空間の費用を使うことができます。東京都心のオフィス賃貸料は1か月1平方メートル当たりだいたい1万円くらいだそうです。都心に標準室を持っているところはなかなかないと思いますが、とりあえずこの数字で考えるとして。

一年間装置がただ置いてあるだけでも数万円の費用を使っていることになります。「捨てれば賃料が戻ってくるわけじゃない」と言われるかもしれませんが、もしその装置が無ければ他の保管料を払っている物をそこに置けるかもしれません。

その装置が年間数千円の利益を出していなければ捨てるべきです。「貴重だから」とか「高価だから」という理由は理由になりません。あること自体が損失を出し続けています。

コンコルド効果

人間の心理現象の一つにコンコルド効果というものがあります。この名前はフランスの超高速旅客機コンコルドにちなんでいます。

コンコルドは1970年台のフランスで大規模予算を投じて建造されました。しかし、運用コストが膨大にかかり、継続して利益を出し続けられないことが早い段階で分かっていました。

でも、コンコルドの建造にはすでに大規模予算が投入されていたので航空業界は計画を中断できませんでした。

このメーカーは結果的に莫大な損失を生んでしまいます。すでに投資したコストを無駄にしたくないためにさらに大きなコストをかけて損失を拡大してしまうのが「コンコルド効果」です。

余計な話が長くなりましたが、感情的に捨てられない物というのは大概「コンコルド効果」が働いていて将来的には損失を拡大します。だから捨てましょう。

技術の現場のとるべき対策

私感ですが、世代交代が上手くいっている現場は近代的な工業施設のようになっていきます。逆に世代交代がされていないところは博物館のような、悪く言うとゴミ処理場のようになっていきます。

たいていの場合、後者は物の価値で分別がされず、思い入れの強さで分別がされています。ですが、思い入れは本人以外には理解できないし無価値です。逆に、管理者が老いれば老いるほど、無価値の物に思い入れをする傾向があります。

結論を言うと、次の全てに当てはまったら捨ててください。

  • 市場価値がゼロの物
  • しばらく使った記録が無く、今後も使う予定の無い物
  • 古い社員が「これは大事」と言っているもの

まとめ

今回は古い技術の廃棄については思っていることを書いてみました。読み返してみましたが、愚痴ですね。すみません。

書きたいことを書いてしまうとページビューは増えないのか?を試してみたかったので、ちょうど良い機会なので動向を見守りたいと思います。