顧客に「JCSS校正証明書をください」と言われたら?
私は仕事で品質管理の相談を受けることがあります。その中でたまにあるのが、
「取引先から検査に使った計器の校正証明書を見せろと言われた。JCSS校正が必要みたい。」
という相談です。
そういう方は何でもいいからJCSSロゴ入りでお願いします。みたいな感じで迫ってきますが、こっちだってどんな校正証明書にもJCSSロゴをつけられるわけではありません。
そういう方には一から丁寧に説明します。今回はその説明の内容を記事にまとめてみました。
JCSSとは何か?
JCSSとは日本の計量法を根拠とした校正事業者の登録制度です。この制度に登録された校正事業者は校正証明書にJCSSのロゴマークが印刷できますが、登録されるには審査でISO/IEC 17025という規格に準拠していることを認めもらう必要があります。
JCSSの校正証明書が発行できるということはこの審査に通過しているという校正技術の証明みたいなものになっています。もちろんJCSSロゴつきの校正証明書であれば、国家標準までのトレーサビリティが保証されています。
JCSSロゴ入り校正証明書は、企業が製品を売るときに検査記録と一緒に提出することがあります。この時JCSSのロゴ(海外の場合はMRAのロゴも)があると検査の品質を保証する資料の1つとなります。
JCSSは必須か?
JCSSは軽量法で定められた制度ですが、計量法の中にはJCSSでないとできないことは書かれていません。一部の規格ではJCSS証明書を要求するものもありますが、だいたいの場合、JCSSは必須ではありません。取引をスムーズにするだけです。
だから「JCSS校正証明書が必要」と言ってきた取引先は、何かを勘違いしていると思った方がいいでしょう。話をよく聞いてみて本当に必要なことを確認するとトレーサビリティの証明が必要なだけだったりします。
私は「JCSSが必要」と相談をしてきたお客さんには、JCSSがなぜ必要なのかを確認してもらっています。これでJCSS校正証明書が本当に必要かどうかはっきりします。
たいていはJCSS校正証明書は必要ではないのですが、中にはJCSS校正証明書が必要な場合もあります。これは海外に製品を輸出する場合です。
私が知っている範囲では、アメリカのある州の政府調達では出荷検査に用いた試験装置のJCSSの校正証明書の提出が必須になっているようです。
JCSSが必要じゃない場合は?
JCSSが欲しいと言って相談してくる人のほとんどはISOか何かの監査で指摘されたことが原因です。そのような規格のほとんどはJCSS校正証明書でなくてJCSS校正証明書への計量トレーサビリティが必要になります。
計量トーレビリティ
校正試験とは標準器があって初めて成り立ちますが、標準器も校正を受けています。標準器ー校正→標準器とさかのぼっていくと、最後に1台の標準器にたどり着きます。
この最後の1台の標準器を国家標準と言います。JCSS校正証明書は校正の履歴をたどっていくと必ず国家標準にたどり着くことを保証しています。このような仕組みを”計量のトレーサビリティ”と言い、トレーサビリティのつながりを一覧にしたものを”トレーサビリティチャート”と呼びます。
トレーサビリティを証明するにはJCSS校正証明書が一番簡単ですが、自分で校正をした場合でもその校正に使用した標準器のJCSS校正証明書があれば問題ありません。
最終的に何が必要か?
最後にまとめますが、私の経験では「JCSSの校正証明書をもらえますか?」と聞いてきたお客さんの9割はJCSS校正証明書は必要ありません。この場合に必要なのは校正試験の計量トレーサビリティの証明書です。
(たまーにJCSS校正証明書でないと受け取らない企業もあります)
計量トレーサビリティに必要な書類は3つです。
- 校正試験の記録(またはJCSSでない校正証明書)
- 校正試験に使った標準器のJCSS校正証明書(さらに親の標準器のJCSS校正証明書でもOK)
- トレーサビリティチャート
要は校正のつながりが途切れないことを証明するわけで、上の校正試験の記録にも使用標準器をしっかり書いておくことが必要です。
ここまでのことを理解しても、それでもよく分らないケースもあるかもしれません。そういう人は産業技術総合研究所とか、製品評価技術基盤機構とかに聞いてみましょう。
また、各都道府県の公設試験場でも相談に乗ってもらえるようです。これらの企業では標準器の貸し出しもしています。
最後の手段ですが、このブログに質問しても回答しますので、困っている方はページ一番下のフォームから質問してみてください。