校正試験はISOに絶対必須!ISO 9001 7.1.5項「監視、測定のための資源」と校正の関係

2022年1月21日

私は10年以上計測器管理の現場で働いています。計測器管理はISO9001と深い関係があることは知っていましたが、具体的にどの部分にどのような記述があるのか曖昧でした。最近ISO9001について調べる機会があったのでISO9001と計器校正の関係について紹介します。

ISO 9001の監視機器、計測器管理

ISO9001は皆さんご存知だと思います。ISO9001は製造業の品質管理システムがISOの要求するレベルに達していることの認証です。一定水準の品質管理システムを有する企業に対する認証であり、必ずしも製品のレベルが高いことを証明するものではありません。(ISO9001認証されていても酷い製品はたくさんあります)

校正試験に関わる規定はISO9001中の7.1.5.1「一般要求」と7.1.5.2「測定のトレーサビリティ」の項目に出てきます。それぞれちょっと難しい表現になっているので解説します。

7.1.5.1 一般要求

ISO9001の中には監視機器と計測機器の管理をすることが義務付けられています。

要求事項に対する製品及びサービスの適合を検証するために監視又は測定を用いる場合、組織は、結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要な資源を明確にし、提供しなければならない。

ISO 9001 7.1.5.1

ここでいう監視とは業務中である状態を検知すること、測定とは何かの物理量を測ることです。この2つを合わせて情報の収集と言ったりします。

ISO 9001ではこの2つの装置のうち、ISOの要求を満たすために使っている装置を明らかにすることを要求しています。これだけだと意味が分かりませんが、ISO 17025の表現と同じ解釈だとすると「ISOに必要な機器の一覧を作成しなさい」ということです。

機器の一覧には機器名、機器型番、メーカー、製造番号、性能、所在、所有の有無、校正周期が必要になります。この後、7.1.5項は下のように続きます。

組織は、用意した資源が次の事項を満たすことを確実にしなければならない。
  
a) 実施される個別の監視及び測定に対して適切である
b) それらの目的に対して適切な状態が維持されている

ISO 9001 7.1.5.1

a)に関しては、測定器、監視装置の導入時もしくはISO取得時に機器の能力が十分であることを確認しておいてください。必要な仕様一覧みたいなものを作成しておくのがいいでしょう。

b)は能力が十分な状態を維持していることを求めています。監視、測定機器にはいろいろなものがあるようなので「適切な状態」は各事業所の対応によります。ただし、計測器を使っている事業者は適切な状態に維持するということは、計測器の定期校正を意味するので注意してください。

組織は、監視及び測定資源の適合の証拠として文書化した情報を保持しなければならない。

ISO 9001 7.1.5.1

ISOおなじみの”文書化”ですが、文書化には客観的な評価基準が要求されています。「真ん中になるように」とか「大体これくらいの量ならOK」とかはNGです。中心から±何%、何グラム±何%の基準が必要になります。審査の前に決めておきましょう。

これらの基準は明らかなものであれば良いですが、何センチ、何グラム、何Vなどの物理量である場合、測定器の校正が必要になります。迷わず校正しましょう。

7.1.5.2 測定のトレーサビリティ

この項では校正が必要な際の指針が書かれています。ISOの中で校正試験が必要とされていて、国家標準へのトレーサビリティが不要な場合はほとんどありません。自局の標準器の校正を外部校正機関へ依頼する場合には必ずJCSS登録された校正機関へ出しましょう。

トレーサビリティが要求事項となっている場合、又は、組織がそれを測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合には、測定機器は、次の事項を満たさなければならない。
 
a) 定められた間隔で又は使用前に、国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサビルな計量標準に照らして校正若しくは検定、又は、それらの両方を行う。そのような標準が存在しない場合には、校正又は検定に用いたよりどころを、文書化した情報として保持する。
b) それらの状態を明確にするために識別を行う。
c) 校正の状態及びそれ以降の測定結果が無効になってしまうような調整、損傷又は劣化から保護する。

ISO 9001 7.1.5.2

abc各項について説明します。JCSSの審査をパスするにはabc全部を満たさないといけません。

a) 「国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサビルな計量標準に照らして校正」と書くとなんだか凄そうですが、これは普通の校正のことです。校正とは計器のズレを校正値で表す試験で、検定は計器の性能を試験して合否をつけることです。

b) 「それらの状態を明確にするための識別を行う」の”それら”はa)の「校正もしくは検定」のことです。機器が校正検証されたものか分かるように校正した年月日を書いたシールを貼って校正済の識別をします。9001でも同じです。校正検証後には機器に実施済み年月日と有効期限の書かれたシールを貼りましょう。

c) 機器を保護します。標準器は環境の変化に敏感なので恒温室に保管します。データは改ざんがないようにパスワード保護をかけます。機器に調整ノブがついていれば容易に変更できないように鍵を掛けます。思い切ってその部分を外してもいいかもしれません。

測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合、組織は、それまでに測定した結果の妥当性を損なうものであるか否かを明確にし、必要に応じて、適切な処置をとらなければならない。

ISO 9001 7.1.5.2

「意図した目的に適していないことが判明」とは、7.1.5.1のa) b) を満たしていないことが明らかになった場合です。明らかになってしまった場合には、それによって監視と計測の妥当性をどれくらい損なうかを見積もります。その結果、製品に起きてしまった影響も見積もります。必要に応じて適切な処置とは、消費者への告知や、ことによると製品の全品回収とかも必要になります。

まとめ

ここまで長くて難しい解説になってしまったので、短く要約してみました。だいたい次のような感じになります。

①9001の業務に使われる監視、測定装置は一覧を作成し、性能が業務に対して十分で有ることを確認して、その性能が常に満たされるようにすること。これらのことは文書に証拠を残すこと。
②校正が必要な場合はやること。校正の証明書は保持する。校正の終わった機器には校正終了のシールを貼って、校正結果が変わらない環境で保管する。

ISO9001の認証を受けた企業は2019年で33000社以上あります。これはJAB(適合性認定協会)のみの実績なので実際にはもっといるはずです。しかし33000社がISOの水準に達した計測器管理ができているのか考えると、半分もいないような印象を受けます。

医療器などを生産する会社はよく注意してください。計測管理が杜撰であると、最後の校正試験が時点までさかのぼって全品リコールや全品回収になります。数か月前だったらラッキーです。1年分とか2年分とかになる可能性もあります。

製品回収のコストを考えると、計器の定期校正をやっておいた方が結果的に安上がりだと思います。