測定器の校正(較正)試験と標準器とトレーサビリティと不確かさの関係

2022年1月21日

測定器の校正は文書校正とは違います。昔は「較正」と書いたのでわかりやすかったんですが、今は文書校正と同じ校正になりました。「較」は常用漢字ではあるのですが、あまり使われないのが理由のようです。

この記事では測定器の校正について説明します。

経年変化

そもそも、測定器や標準器といったものには必ず「経年変化」があり、時間とともに測定能力が変わっていきます。これは故障ではなく、通常の測定器はすべてこのようなふるまいをします。

例えば、モノサシを考えます。温度変化で伸びたり縮んだりするし、削れて小さくなったりします。寸法で料金を決めるものはモノサシの管理状態で料金が変わることも考えられます。

それではまずいので、測定器(特に法定計量器)は定期的な能力の確認が義務化されています。これを校正試験といいます。身近にある以下のものをよく見ると校正シールが貼ってあります。

  • 電気メータ
  • スーパーのはかり
  • タクシーメーター
  • 給油機
    など

校正期限を過ぎてしまった測定器も普通に測定はできますが、その結果は有効ではありません。製品検査や環境測定などの試験を有効にするためにはその試験に使用した測定器の定期的な校正が必要です。

量子標準

経年変化はすべての測定器にあるのであれば、一つ疑問がわきます。全ての測定器がどんどん変化したら何が本当の値かわからなってしまいます。

しかし、唯一経年変化がない測定器・標準器があります。「量子標準」と呼ばれる量子力学的な物質の特性に基づいて作られる標準器です。

例えば、長さの量子標準にはヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーが使われます。長さはこのレーザーが一定時間で進む距離で定義されています。この方法は地球上のどこでも、いつでも、どのような機器を使っても同じ長さを測ることができます。

特に国家がその国の基準として定めた量子標準(量子標準じゃない場合もあり)のことを国家標準といいます。

校正試験は必ず量子標準などの誤差の少ない標準器を使って行わなければなりません。そうでないと、誤差の大きいもので校正試験をしても、結局正確な校正試験ができないです。

トレーサビリティ

じゃあ量子標準を準備しましょう。といっても量子標準は超高価です。普通の会社が校正試験のために買いそろえておくことは無理です。

ですので、全部の測定器が量子標準で直接校正試験しなくてもいいよね。ということを実現したのでトレーサビリティです。

法定計量器は定期的に国家標準を基に校正しなければなりませんが、国家標準を基に校正された標準器を基に校正してもOKとされています。

また、国家標準を基に校正された標準器を基に校正された標準器を基に校正してもOKです。同様に国家標準を基に校正された標準器を・・・・と、どこまでも続けることができます。

しかし、必ず頂点に国家標準があることが求められます。このような国家標準につながれる校正の鎖を計測のトレーサビリティと呼びます。

不確かさ

いくら国家標準につながるトレーサビリティがあるからと言っても、校正の鎖が長くなってくると校正試験の精度が悪くなってきます。このような校正の精度を不確かさという指標で表します。

不確かさを悪くする原因には以下のようなものがあります。

  • トレーサビリティが何台もの測定器、標準器を経由している。
  • 校正実施日の間隔がとてもあいている。
  • 校正に使用した測定器、標準器がヘボい。
  • 校正試験の環境が悪い。
  • 校正方法が悪く(=下手で)再現性が低い

測定器を使用する場合、校正試験を受けていることと、ある程度の不確かさを要求されることがあります。トレーサビリティがあるからと言っても、要求される不確かさを達成するためには、ある程度本気を出して(お金を出して)機器や環境を整えないとダメと言うことです。

まとめ

今回は測定器の校正について書いてみました。測定器の校正にどのくらいお金を掛けるかは結局コストと効果のバランスです。予算をつけて全部業者にお任せでもいいですし、やろうと思えばすっごい安い投資で社内の校正体系を立ち上げることもできます。

どちらにしろ労力ががかかるところは校正体系を理解している人間を社内で育てることです。校正とかって考え方が特殊で、社内の文化になるには時間がかかります。

不確かさのあたりを書きながら、いくらでも広がっていきそうな感じだったので、とりあえず一区切りにしました。ここからISOやMRAの話につながっていくので、またそのうちまとめて書きたいと思っています。